スペシャルメッセージ
瀬戸内寂聴さん(第3回受賞者)
安吾賞の御受賞おめでとうございます。
前年私が受賞してこういう席で皆様から祝っていただいたのが、つい昨日のように思われますのに、はや一年の歳月が流れております。歳を取るにつれ時の流れが早く感じられます。
安吾賞は文学賞ではなく、その人の生き方に下さると聞いて、小説家の私は、複雑微妙な感じを受けたものでしたが、私の戦後の生き方は、まさに安吾の「堕落論」を教科書として、体当たりで生きてきましたので、それが認められたと思えば、ひとしおの感慨がありました。
渡辺さんのこの度の御受賞も、安吾の破滅型の生き方と、優等生的な渡辺さんの生き方に、一瞬おや、と思いましたが、今や世界の渡辺としてハリウッドのスターとして活躍していらっしゃるお仕事ぶりを見れば、なるほど安吾的情熱を持たれ、いつでも捨身の一生懸命さが安吾の血統の方なのだと、深く納得致しました。
覚えていらっしゃいますか、あなたが再起不能かと危ぶまれた大病から立ち直られた直後、私が良寛のことを書いた「手毬」という小説の映画化の話が起こりました。私は良寛を演じて下さる俳優さんを選ぶ時、何の迷いもなく「渡辺さんにお願いして!」とプロデューサーに頼みました。病後のやせた渡辺さんに良寛の上品で慈味のある全容がぴったり重なったのです。
あの時、あなたは、とても魅力的な役だけれど、まだ体力に自信がないからと断ってこられました。
松本幸四郎さんが十キロもダイエットして、とてもすてきな良寛を演じて下さいましたが、その画面を見ながらも私はあなたのおもかげを良寛の上に重ねていたのでした。
あれから、あなたは本当に御健康を取り戻され、目覚ましい活躍をつづけていらっしゃいます。どれもみな話題になった好評の作品にはあなたの並々ならぬ不屈の精神と、挑戦力が輝いています。
今後も益々目覚ましい御活躍を展開なさることでしょう。
あなたと結びつけてくれた安吾の霊と、御遺族と、新潟の皆々様に深く感謝しております。
渡辺さん、もう一度千も万もおめでとうございます。
(撮影 : 坂口綱男)
野口健さん(第2回受賞者)
第4回安吾賞受賞おめでとうございます。若年性アルツハイマーをテーマとした「明日の記憶」拝見させていただきました。映画の関係のインタビューで、渡辺謙さんが「役者として社会問題を取り上げることに意味がある」とおっしゃっていましたが、私も強く同感しています。日本人は、とかく政治的な話になると意見をしたがらない傾向があるように思われますが、しかし、社会問題とは、政治家や官僚だけに任せるのではないと思います。社会へのアプローチは、渡辺謙さんのような強いメッセージ性を持つ方を含め、社会にかかわる全ての人の役割でもあります。私も渡辺謙さんと同じような気持ちで登山家なりに現場で感じたことを社会に訴えていきたいと思います。本当におめでとうございます。
野田秀樹さん(第1回受賞者)
私が受賞した時は、私などからスタートして大丈夫か?いけてんのか?この賞に先はあるのか?などと、あれこれ私自身が一番心配しておりました。が、こうして毎年なるほど、この方がいたか、よくぞまた、安吾の名前にふさわしい人を見つけてきたなと、感心しきりです。今年の渡辺謙さんの受賞で、坂口安吾賞に、硬派の生き様に対する賞という意味合いが加わったのではないでしょうか。毎年、こうやって意味合いが一つずつ加わっていくというのが素晴らしいですね。面識はありませんが、渡辺謙さん、いつかどこかですれ違った時、安吾繋がりということで、よろしく。無視しないでください。おめでとうございます。