選考委員長・市長コメント
選考委員長コメント
野田 一夫
第3回「安吾賞」の選考を終えて
今年も有力候補者は目白押しで、「安吾賞」は難産が予想されたが、結局は瀬戸内寂聴さんが選考委員たちの圧倒的な支持を得て受賞の運びとなった。
「安吾賞」は”文学賞“でも”地域貢献賞“でもなく、”生きざま賞“である。瀬戸内さんは、その作品によってすでに数々の文学賞を受賞されているが、今回は、作家としての彼女の有為転変の人生そのものが受賞対象となったことに、大きな意義がある。
瀬戸内さんは先日篠田新潟市長と会われた際、「私は『堕落論』を読んで家出したのですから、安吾さんに責任をとってもらわなければ」とおっしゃったそうである。「安吾賞」受賞者としてこれほど生々しい述懐はありえようか…。若く多感な時代、彼女は当時の普通の女性のとうてい真似できない生き方のために、世間の風の冷たさを嫌というほど味わわされたはずだ。が、彼女は決して屈しなかった。
そんな頃、「…人間は生き、人間は堕ちる。…だが人間は永遠に堕ちぬくことはできないだろう。…堕ちる道を堕ちきることによって、自分自身を発見し、救わなければならない。…」という安吾の痛烈な言辞は、いかばかり彼女を励まし、その反骨精神を鼓舞したことであろう。
功成り名を遂げられた後の瀬戸内さんの身の処し方も、常人の成しえない見事なものと言うほかは無い。「全集が出るたびに毎回買っている」というほど安吾が大好きな瀬戸内さんの受賞は、「安吾賞」にとっても特に記念すべきことだと、私には思える。
新潟市長コメント
篠田 昭
第3回安吾賞は、瀬戸内寂聴さんに決定しました。
瀬戸内さんは、作家としての活動を始めた当初、苦境に置かれながらもそれを克服し、見事にその地位を確立されました。
その後も数多くの作品、「源氏物語」の現代語訳やケータイ小説へのチャレンジなど、意欲的に執筆活動を展開する一方、法話や講演などで全国各地を回り、日本中の人に勇気と元気を与えていらっしゃいます。
年齢を感じさせない常に挑戦し続ける瀬戸内さんの全人的な活動は、まさに「安吾賞」にふさわしいといえます。
さらに、瀬戸内さんが一番好きな作家は坂口安吾だということで、今回の受賞を本当に喜んでくださっています。新潟市としても大変嬉しいことです。
また、新潟市特別賞は、ネパール・ムスタンで活動を続ける近藤亨さんに贈らせていただきます。
新潟出身の近藤さんは単身、ネパールの秘境ムスタンに定住。農業開発と技術指導を手掛けるかたわら、学校や病院の建設など、私財を投げ打って、さまざまな奉仕活動を展開しておられます。
情熱と不屈の精神で、ネパール・ムスタンの地から、私たち日本人にメッセージを送り続けてこられたこれまでの活動に敬意を表し、近藤さんにこの賞をお贈りしたいと思います。
新潟市はこれからも、反骨と飽くなき挑戦者魂の安吾精神を発揮する「現代の安吾」に光を当て、安吾賞を全国に発信してまいります。