スペシャルメッセージ
野田秀樹さんの第1回安吾賞受賞を祝して、友人である篠山紀信さん(写真家)、金子國義さん(画家)、中村勘三郎さん(歌舞伎俳優)の3名からお祝いのビデオメッセージが寄せられた。
当日まで極秘裏に準備にされてきた心温まるメッセージに、照れながらも感激の表情で応える野田さんの様子に会場も一気に和んだ。
篠山紀信さん(写真家)
野田さん、また賞か何かもらっちゃったそうで。
賞っていうのはね、もらった当人は実はうれしいんだけれども、周りの人から見ると実は神々しくて、何か権威っぽくなって、ものを本当に創る時って結構邪魔なものなんですよね。垢みたいなもんでね、そういうものをいつも落としてきれいになっていないと、ものって創れないじゃないですか。
野田さんは自分の芝居のパンフレットに書いていたんだけれども、自分より若いやつが全部だめで、もうとても待っていられないから、俺は関係なく一人で行くよって書いていたのがあったんだけれども、あれすごくいいですよ。ああいうふうに走る疾走感、野田さんにはいつまでも走っていてもらいたいわけ。
僕もよくカメラ小僧と言われるんですけれども、子供の目、少年の好奇心のたくましさ、ああいうのは野田さんの姿を見ていると、いつも子供みたいだし、何かいつもスリムで走っているし、その疾走感がすごくいいですよ。僕は野田さんと一緒に走り続けたいと思います。おめでとうございます。
金子國義さん(画家)
坂口安吾っていうと、やっぱり頭の中から出てくる言葉は狂気の中の錯乱と優雅さという感じで、そこら辺が野田さんは、今までに作れなかった題材の試みに没頭してるか、そういう感じが似ているような感じがして、それはすばらしいことだと。それで自分の中で納得。納得いかないとおめでとうとは言えませんから。
世の中には演劇人という、演出家とかたくさんいるなかで、安吾の精神を受け継ぐ人は野田さんしかいないんじゃないかなと。それは野田さんの努力のたまものではないかと信じております。いろいろ言い尽くせないですよね。あまり褒めすぎてもいけないかなと思うんですけれども、お互いに日本の宝となるように頑張りましょう。よろしくお願いいたします。おめでとうございます。
中村勘三郎さん(歌舞伎役者)
本当におめでとうございます。うれしいと思います。何て言うのかな、これはお金が出るんですか? じゃ、おごってください。うれしい。
それと、あとは身体が、本当に月並みだけれども、大事にして、あとは子供。野田さんと同じような子供。面白いと思う。だって素敵な奥さんをもらったんだから、親父になれ、早く。
でもうれしいです、私は。こういう賞を彼がもらうと、それがまた,「うーん、賞なんて」って、相当内心は喜んでいますよ。賞ってどっちでもいいと私も思っているんです。彼も思っていると思うんです。ただ、貰えればうれしいです、それは。だからとても喜んでいると思うし、もらいたい賞ともらいたくない賞といろいろあると思うんです。だけれども、私もそうだけれども、彼は昔,賞というものを一切もらえなかったんだってね。だからそれはなぜだろうと。見る目がないのかな、賞をくれる人に。だって才能そんなに変わっていないですからね。それなのに認められず、例えばこの間のイギリスだってそうじゃないですか。最初にすごい悪い評をもらって、それでも落ち込まない、なにくそと思ってやって、今度はすごくいい評が。でもそれは、波が振幅があるということにおいては、安吾さんという人はそうだったんでしょう? それはぴったりだよね。
やはり彼のすごいところというのは、人間誰でも怖いですよね、作品に対してとか自分に自信がないんです。本当に自信がありませんよ。本当はある人に見えるでしょう? だから安吾という人も自信がなかったんじゃないかな。驚いたですわ、(研辰の討たれの台本を)読んだときに。「しないでじらしてされるがジェラシー」という言葉が最初だからね。それを歌舞伎座の舞台の上で言うのは、正直言ってどうしようかと思ったんだけれども、でもやっぱり言ってみたら,飛べたということがありますね。言葉によって飛べたというような。
(研辰の討たれの)初日の日に、これは何回もいろいろなところで言っていることなんですけれども、どうなるか分からないわけじゃないですか。彼は出ていないわけですよ。いつも野田秀樹という人は、作・演出をしながら出ていますからね。自分が出ていない芝居で私だけに託すというときの、初日は,それこそ戦友といったけれども、本当に特攻隊を送る、空母のところでしか整備兵は見送れないじゃないですか。いってらっしゃいしか言えない野田秀樹は紙のように白い顔、それで、私もメイクをしているときの内心はもう真っ青です。それで、握手したか何か、覚えてないですね。幕が上がる直前の彼の目を見たときに、行ってこい、死んでこいみたいな、私も死んでくるよみたいなのでやったんです。
でも、大親友です。と、言ってくれていますから、向こうが。(笑い) ほんとに、おめでとうございます。