選考委員長・市長コメント
選考委員長コメント
野田 一夫
第5回の選考を終えて
今年度の『安吾賞』受賞がドナルド・キーンさんに決まったことは、私にとって二重の喜びだ。一つは、「国籍、年齢、性別、職業…を問わず、その生きざまが安吾のそれに通ずる」と当初から謳ってきた選考基準に則り今回始めて学者でかつ外国人であるキーンさんが受賞されたことは、その選考基準の現実性をより確かに裏付けることになったからだ。もう一つ。これは全く私的なことだが、今回の授賞選考をもって、私は初代委員長としての役割を無事果たし終えることができた。
6年前篠田市長から突然「新潟生まれの作家、坂口安吾を顕彰するために、市として『安吾賞』を創設するので選考委員長を…」という趣旨の電話を頂戴した時のことが、まるで昨日のことのように思い出される。「文学と関係がないし、新潟とも関係がない…」と当然ご辞退した僕も、結局は「大学教授としての野田さんの生きざまがどこか安吾のそれに一脈相通ずるから…」という篠田氏の説得に何となく心をくすぐられ、柄にもない大役を引き受けることになってしまった次第だが、今になっては、有能かつ気分のいい委員の方々のおかげで、本当にやり甲斐のある仕事をやらせていただいたと深く感謝している。
上記のいきさつから、『安吾賞』は以来“生きざま賞”と呼ばれて今日に至っている。こんな賞は日本はもとより世界でも聞いたことがない。“坂口安吾的生きざま”とは、時流に流されず、慣習に染まらず、権力に臆することなく…、常に自分の体験に基づく独自の信念なり思想をもって発言し行動することにより世の人々の良識を呼び覚ます、といった人間の生き方だと言ってよかろう。バブル崩壊後久しく活力を失い、ひたすら暗い未来に怯えがちな日本社会には、今こそ各界に“坂口安吾的生きざま”を持った人物の存在がますます重要視される。その意味で私は、『安吾賞』が今後末永い歴史を重ねていくことを心から祈念してやまない。
新潟市長コメント
篠田 昭
第5回安吾賞はドナルド・キーンさんに
第5回安吾賞は、日本文学・文化研究者のドナルド・キーンさんに決定しました。
ドナルド・キーンさんは若い頃に日本文学・文化に魅せられ70年にわたり研究を続けてこられた方です。
日本を度々訪れ、日本の古典文学に触れるとともに、伝統芸能にも興味を持ち、自ら狂言の『太郎冠者』を演じたり、大英博物館で発見された古浄瑠璃『弘知法印御伝記』の復活上演に尽力するなど、日本文化の研究と普及に情熱的に挑戦し続けていらっしゃいます。
キーンさんの日本文学・文化探求に対する行動力、海外に日本文化を広め、私たちにその素晴らしさを再認識させてくれたことは、まさに挑戦者魂にあふれ日本人に勇気や元気を与えてくれたという点で、安吾賞に相応しい人といえます。
また、新潟市にゆかりのある方にお贈りする新潟市特別賞は、『こわれ者の祭典』代表の月乃光司さんに差し上げることにしました。
月乃さんは引きこもり生活やアルコール依存症、自殺未遂などつらい時期を過ごされましたが、アルコール依存症を克服し、現在は心身障がい者によるパフォーマンス集団『こわれ者の祭典』代表として活躍されています。
自らの病気体験をユーモアに転化するというかつてない方法で心や身体に障がいをもつ方々、病気に苦しむ人たちに光を当て、生きる力を与え続けている月乃さんの活動に心から敬意を表したいと思います。
新潟市はこれからも反骨と飽くなき挑戦者魂の安吾精神を発揮する「現代の安吾」に光を当て、安吾賞を広く発信してまいります。