(5-34)国民健康保険高額療養費申請の簡素化
最終更新日:2024年2月28日
(5-34)国民健康保険高額療養費申請の簡素化
令和5年10月16日苦情申立書受理
申立ての趣旨
国民健康保険高額療養費申請の簡素化
申立ての理由(要約)
私は、毎月、区役所の窓口で国民健康保険高額療養費の申請を行っているが、手続き終了までの待ち時間が長い時で2時間である。
これまでに、厚生労働省から当該申請の手続きの簡素化についての改正省令が2回発出されていて、各自治体ではすでに簡素化が実施されており、一度の申請で毎月の申請が不要となっている。
新潟市は未だに実施していないばかりか、取り組みも開始されておらず、申請者の利便性などが考慮されていない。
所管部署
福祉部保険年金課(以下「所管課」という。)
調査の結果
令和6年2月26日決定
所管課の対応に非があるとは認められない。
調査結果の理由
当審査会では、申立人及び所管課から資料を提出してもらうとともに、双方から聞き取りを行いました。
その結果、以下のような事項が認められました。
1.前提として、本件で問題とされている国民健康保険高額療養費の制度の概要等は次のとおりでした。
(1)医療機関等で支払った額が月の自己負担限度額を超えた場合などに、その超えた部分を支給し、被保険者の負担軽減を図る制度。自己負担限度額は所得や年齢により区分され、「世帯合算」や「多数回該当」などの支給要件が設けられている。
(2)具体的に利用する場合には、「限度額適用認定証」等の提示により、医療機関等での支払額を限度額で抑える仕組みと、世帯主からの請求に基づく償還払いによる支給がある。複数の病院などで治療を受けている場合には、請求に基づく償還払いによる支給を受ける必要がある。
2.本件に関する事実経過は次のとおりでした。
(1)平成29年3月31日、国民健康保険法施行規則が一部改正され、高齢者の負担を軽減する観点から、世帯に70歳から74歳までの被保険者しかおらず、世帯主も70歳以上である場合に限り、市町村が別段の定めをすることで、高額療養費の支給申請手続(以下「本件手続」という。)を簡素化することが可能となった。具体的には、申請書の記載内容を工夫すること等により、実質的な申請は初回時のみで足りるようにすることが可能となった。
(2)但し、上記のような簡素化を行った場合には、次の(ア)~(オ)のようなデメリットがある。そのため、平成28年12月20日付の厚生労働省担当課長による通達では、そのようなデメリットがあることも踏まえた上で手続を簡素化するか否かの検討を行っていただきたいとの趣旨の注意喚起がされている。
(ア)滞納者との接触の機会が失われること。
(イ)申請手続が簡素化されている世帯に70歳未満の被保険者世帯員が加入すると、世帯全体が簡素化の対象から外れ、70歳未満の加入・脱退の状況によっては、簡素化の対象・対象外を繰り返すことになり、高齢者の負担が大きいこと。
(ウ)レセプト情報のみで支給額を決定することとなるため、一部負担金等を支払っていない場合にも高額療養費を支給してしまう可能性があること。
(エ)世帯主が死亡した場合にその把握が遅れることで、相続人の口座ではなく死亡した世帯主の口座に振込処理してしまう可能性がある等、資格得喪の把握が遅れることで、被保険者に対する高額療養費の過誤給付が発生すること。
(オ)高額療養費支給申請書の記載項目とレセプトを突合することにより、レセプトの記載誤りを発見できることもあるが、その機会を失うこと。
(3)令和3年3月17日、国民健康保険法施行規則が一部改正され、「世帯主及び当該世帯主の世帯に属する被保険者が70歳に達する日の翌日以後である場合」に限らず、本件手続の簡素化をすることが可能となった。
(4)現状、新潟市以外の一部の地方自治体では本件手続の簡素化が行われているが、新潟市では簡素化は行われていない。
3.本件に関する申立人の主張の要旨は申立の理由(要約)記載のとおりでした。
4.所管課の説明の要旨は次のとおりでした。
(1)所管課としては、令和3年3月の国民健康保険法施行規則の一部改正を受け、被保険者の負担軽減及び市の事務負担の軽減に資することから、可能であれば本件手続を簡素化することが望ましいと考える。
(2)新潟市では事務処理のために様々なシステムを利用しており、国民健康保険に関する事務については国民健康保険用システム(以下「国保システム」という。)を作成して利用している。本件手続を簡素化するとすれば、国保システムを改修する必要がある。
(3)新潟市では、令和元年以降、順次、各種システムを更新しているところ、国保システムも更新され、令和5年1月に新国保システムが稼働した。令和3年3月の時点では既に新国保システムの構築が開始しており、本件手続の簡素化に対応できる形で新システムを作成することができなかった。そのため、新国保システムの稼働後(令和5年1月以降に)、本件手続の簡素化に対応できるように新国保システムを改修するほかなかった。なお、国保システムを改修する費用について業者に概算見積りを依頼したところ、改修には2千万円~3千万円を要するとの回答を得ている。
(4)他方、国の方針として、各自治体が使用するシステムを、国が定める標準的な仕様に合わせるように指導がされている。当初の予定では、標準仕様にしたがった新システム(以下「標準システム」という。)は令和8年1月稼働を目指すとのことであった。したがって、上記の費用と相応の時間をかけて新国保システムを改修したとしても、令和8年1月までしか利用できないこととなってしまう。そのため、本件手続の簡素化に対応できる形で標準システムを構築するしかないと考え、新国保システムの改修は断念した。
(5)その後、国における標準システムの構築作業は進んでいない模様。そのため、標準システムの稼働は遅れると思われるが、具体的な時期その他の情報は無い。
以上によれば、(1)各地方自治体は、本件手続を簡素化することを義務付けられたり、積極的に推奨されているものではなく、簡素化にはデメリットもあることに鑑みて採否を検討するとされていること。(2)令和3年3月の国民健康保険法施行規則一部改正によって簡素化の対象が拡大したことを踏まえ、所管課としては本件手続を簡素化したいと考えていること。(3)しかしながら、簡素化のためには相応の費用をかけてシステムを改修する必要があるところ、システム改修のタイミング等の関係で実現の見通しが立っていないことが認められます。
よって、所管課の対応に非があるとは言えないと考えます。
なお、申立人を含む市民が区役所の窓口で何らかの手続をしようとする場合、時間帯等によっては、長時間、待機しなければならない状況にあることが認められます。この点、長時間の待機を強いられることが、窓口利用者にとって大きな負担であることはいうまでもありません。もっとも、利用者は常に長時間の待機を強いられるわけではなく、曜日や時間帯、あるいは時季等によって利用者が集中するため、利用者集中時の待機時間が長くなるものと考えられます。したがって、窓口利用者が窓口を利用する時間帯等が分散すれば、待機時間を短縮・解消できると考えられます。
所管課においては、窓口利用者に対して、長時間の待機が不要な曜日・時間帯等を効率的に案内するとともに、窓口での手続を行う時期を遅らせても不利益がない場合には、そのことを窓口利用者に説明して理解を得るなど、窓口利用者が窓口を利用する時間帯等を分散させるための工夫を図ることを希望します。
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